文章を書くのが仕事の作家たちはどんな筆記具を使っていたのでしょうか?タイプライターに万年筆、鉛筆派もいます。最近はMacで書く作家も多いようですね。これから皆さんと一緒に見ていきましょう。
目次
羽根ペン
羽根ペンは鳥の羽根で作られた、つけペンの一種です。主にガチョウの羽を削って作られインクをつけて使います。最も古いペンの一つです。
チャールズ・ディケンズ
イギリスの小説家。作品は「デイヴィッド・コパフィールド」など。
ディケンズは手紙も小説もガチョウの羽根ペンを使って小さな字で手書きしました。薄い茶色ではなく黒のインクを好んでいましたが、1840年代に青のインクに変え、紙もブルーがかったものを使用するようになりました。彼は筆記具をとても重要と考えていたようで、手紙にもペンとインクの話題がしばしば登場しています。またいつでも書けるように旅行時には携帯用のインク壺と羽根ペンを何本も持っていったそうです。
鉛筆
鉛筆は、顔料を細長く固めた芯を軸(主に木製)で挟み持ちやすくしたものです。16世紀の終わりから量産され、日本では17世紀初頭に徳川家康が最初に使用したといわれています。
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー
アメリカの小説家。作品は「ウォールデン」など。
ソローは生涯に渡って家業の鉛筆工場経営を手伝っており、新しい芯の製法の発明までしています。日本でいうBやHBなど芯の硬さを変えることや、赤と黒が一本になった鉛筆もソローの発案です。もちろん本人も鉛筆を愛用していて、いつもノートと一緒に持ち歩いていました。
ソローの父が経営していた鉛筆会社のチラシ
トルーマン・カポーティ
アメリカの小説家。作品は「ティファニーで朝食を」など。
こちらでご紹介したことがありますが、カポーティはEberhard Faber社が1930年代から1998年まで製造していた”Blackwing 602”という鉛筆を使用していました。ベッドのスタンドのところにいつも未開封のボックスを置いておいたそうです。鉛筆は書き始める前にまとめて削り、執筆には黄色い紙を使いました。
ウラジーミル・ナボコフ
ロシアの小説家。作品は「ロリータ」など。
ナボコフもカポーティと同じく”Blackwing 602”を愛用していました。インデックスカードという小さな厚紙にプロットやシーンを書きつけていくのが彼のスタイルでした。鉛筆についている消しゴムが芯より先になくなってしまうことが不満だったそうです。
こちらは復刻版のBlackwing 602です
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タイプライター
最初に商業的に成功したタイプライターは1874年にE.レミントン・アンド・サンズが発売したものだと言われています。この機械から”タイプライター”という用語が初めて用いられ、キーボードに現在PCでも使われているQWERTY配列が採用されました。この配列は文字を打つアームと呼ばれる部分がからむのを避けるために考えられたものです。
ポール・オースター
アメリカの小説家。作品は「ムーン・パレス」など。
ポール・オースターは1974年に友人から格安で譲り受けた、西ドイツ製のOlympia SM9というポータブル・タイプライターを使い続けています。オースターいわく、PCは操作を間違うと、一瞬で一日仕事を消してしまうらしいし、自分は間違える自信がある、それにとりあえず文字が書けるタイプライターが手元にあるのに別のものに変える必要を感じないとのことです。このタイプライターに魅せられた友人の画家サム・メッサーと共にタイプライターに関する本も出版しています。
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シャープペンシル
シャープペンシルに関する最初の特許は1822年にイギリスのサンプソン・モーダンという人物によって出願されています。日本では1915年に早川金属工業(現在のシャープ)が”早川式繰出鉛筆”として特許を取得しました。後に”エバー・レディ・シャープ・ペンシル”と改名され、シャープペンシルという名称が一般化しました(アメリカではメカニカル・ペンシル)。
宮沢賢治
日本の詩人・小説家。作品は「銀河鉄道の夜」など。
宮沢賢治は”春と修羅”に収録された”いま来た角に”という詩の中に「シャープ鉛筆 月印」という言葉があるようにシャープペンシルを使用していたようです。戸外に出る時にもノートとシャープペンシルを首から下げ、何かを思いつくとメモしていました。使用していたシャープペンシルのメーカーは特定できませんが、当時はまだかなり珍しいものだったので賢治のハイカラぶりがうかがえますね。
筆
筆は秦の蒙悟(もうてん)将軍が初めて作ったと伝えられてきましたが、殷(いん)時代(前17世紀ごろから前11世紀半ば)の甲骨片に筆を用いたと思われる文字が書き残されており、殷代(あるいはそれ以前)から筆があったことがわかっています。日本に現存する最古の筆は「天平筆(雀頭筆)」であるとされており、奈良県の正倉院に残されています。
谷崎潤一郎
日本の小説家。作品は「細雪」など。
谷崎潤一郎は、初期はペンを使用していましたがある時期から毛筆で原稿を書くようになりました。元々遅筆なので早くかける万年筆は意味がないとか、筆圧が強いために文章を塗りつぶして削除する際に原稿用紙が破れてしまうといったこと以外に、墨を磨ったり、筆に含ませたりする時間がちょうど良い間をもたらすというのが大きな理由でした。几帳面な楷書体でわかりやすい字を書いています。
出典:伊豆新聞
万年筆
1809年にイギリスのフレデリック・B・フォルシュという人物が内部にインキを貯められるペンを考案し特許を取得しました。こちらが現在の万年筆に近いものの最初とされています。1884年にアメリカの保険外交員ルイス・エドソン・ウォーターマンが、世界初の毛細管現象を応用した万年筆の特許を取得し、インク漏れしないエボナイト軸や14金のペン先などを備えた万年筆を完成させました。
夏目漱石
日本の小説家。作品は「坊っちゃん」など。
夏目漱石は「余と万年筆」という文章を残しています。そちらによると丸善で気まぐれに買ったペリカン万年筆(現在のドイツのメーカーではなく、イギリスのDe La Rue社の製品)とはどうにも相性が悪く、内田魯庵にもらったオノトが気に入ったようです。インクはセピア色を好みました。
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開高健
日本の小説家。作品は「夏の闇」など。
開高健は「生物としての静物」の中の一篇、「この一本の夜々、モンブラン」で長年使っているモンブランのマイスターシュテュック149への愛情を語っています。「こんなに長年月いっしょに同棲すると、かわいくてならない。かわいい というよりは手の指の一本になってしまっている。」ペン先は中字、インクはパイロットのブルーブラックを好みました。149にも様々なディテールの違いがあり、マニアの間では開高の使用していたものとまったく同じものを特定し、”開高モデル”とよんでいます。
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ワープロ
世界初のワードプロセッサは、1964年に登場したIBM MT/STだと言われています。日本語は漢字の入力方式とアルファベットと比べて複雑な字形の印刷いう難関があり、1978年になってようやく東芝が「かな漢字変換」を搭載した初の日本語ワードプロセッサJW-10を発表しました。こちらはワープロ専用機で、価格は630万円でした。
安部公房
日本の小説家。作品は「砂の女」など。
安部公房は日本で最初にワープロで執筆した作家といわれています。使用していたのはNECのNWP-10Nと後継機種の”文豪”で、それらの開発にも関わっていました。安部は書き直しを重ねるタイプだったので、修正しやすく構成も変えられるワープロがあっていたようです。安部の遺稿はフロッピーディスクで発見されています。
Mac
Macintoshは1984年1月24日にApple社から発売されました。マウスによるグラフィック・ユーザー・インターフェースの操作、複数のフォントを搭載するなど革新的なコンピューターでした。発売当時の価格は2495ドルでした。
チャールズ・ブコウスキー
アメリカの小説家。作品は「パルプ」など。
1990年のクリスマスに70歳のブコウスキーは妻のリンダからMacintosh IIsiとレーザープリンターを贈られます。OSは6.0.7、ワープロソフトはMacWrite IIでした。Macに向かって日々日記を書く様子は「死をポケットに入れて」に描かれています。
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村上春樹
日本の小説家。作品は「1Q84」など。
村上春樹は「ノルウェイの森」をローマの文房具店で買った安物のノートに、BICのボールペンで書いたそうですが、比較的早く執筆にMacを使うようになりました。2015年に限定公開したサイトに書斎を公開し、そこにはMacが置かれていました。「使っているコンピュータはもちろんアップルです。けっこう旧いものなので(OS X 10.4.11)、少しずつ不便も出てきていますが、小説を書いたり、メールをやりとりしたり、グーグルでものを調べたりするくらいのことにはまったく問題ありません。サブでMacBook Air を使っています。」とのことです。
ポメラ
ポメラはキングジムが製造販売するデジタルメモです。フルキーボードを備えながら文字を書くことだけに特化した小型のワープロのようなガジェットです。製品名は「ポケット・メモ・ライター」の頭文字から取られています。WiFi機能を備えた最新機種のDM200が2016年10月に登場しました。
羽田圭介
日本の小説家。作品は「スクラップ・アンド・ビルド」など。
羽田圭介は2009年に発売されたポメラのDM20を見て目が疲れなさそうということで使い始めたそうです。ポメラで書いた文章をPCに取り込み、プリントアウトして赤ペンでチェックするという執筆方法です。
ただいま準備中!今夜24:05~26:00の「真夜中のニャーゴ」(フジテレビオンデマンド/NOTTV)をお楽しみに!加藤千恵さんと出ます。付け句も募集中です。僕のオススメ本は『東京自叙伝』#ニャーゴ水 pic.twitter.com/3lTLFdL8yh
— 羽田圭介 (@hada_keisuke) June 3, 2015
- 出版社/メーカー: キングジム
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作家によって道具も様々ですね。執筆のための道具と作風は関係あるんでしょうか?書ききれなかった小ネタも多いのでまた続きを書くかもしれません。